【2008年10月29日(水)付】
パリの地下鉄で少女のスリ団に囲まれたことがある。動きに気づいて眼前の腕をねじ上げたら、100ユーロと50ユーロの札がはらり。財布には10ユーロも何枚かあったのに、人の懐中で札を選んでいた。その指技に絶句しながら、走り去る3人組を見送ったものだ▼26年ぶりの安値に沈んだ日経平均が昨日、一瞬だが7千円を割った。1年前、株価の6千円台、7千円台といえば「1万」を省いた言い方だった。それが省く前から消えている。投資家は、金融危機という米国発のスリ団に万札をやられた思いだろう。連中、1日で世界を一周する足を持つからタチが悪い▼地獄のふちをのぞいた株価は、首をすくめて上昇に転じた。上げ幅はしかし、ここ4営業日の落ち込みに対して2割。円高もあって相場の先は見えない。連日の神経質な動きは、市場の震えか痙攣(けいれん)か▼東証1部の時価総額から1年で約300兆円が飛んだ。生産、雇用、消費。生の経済活動が被る傷も浅くは済むまい。内外の自動車産業の苦境がすべてを物語る▼株価が同じ水準にあった82年春、500円硬貨が発行された。思えばこの年を挟む70~80年代、株価は500円玉を毎年積み上げるように1万円を目ざした。緩やかだが堅実な、そして懐かしい右肩上がりの時代である▼ドイツの詩人シラーは「時の歩み」をこう詠じた。〈未来はためらいつつ近づき、現在は矢のように速く飛び去り、過去は永久に静かに立っている〉。時は金なりと言うが、飛び去った金はいずれ、ためらいながら戻って来る……のだろうか。
【天声人語2008年10月29日 时间的脚步】
▼パリの地下鉄で少女のスリ団に囲まれたことがある。動きに気づいて眼前の腕をねじ上げたら、100ユーロと50ユーロの札がはらり。財布には10ユーロも何枚かあったのに、人の懐中で札を選んでいた。その指技に絶句しながら、走り去る3人組を見送ったものだ
我在巴黎的地铁站曾经遇到一个女子盗窃团伙。在我发现(被偷后)随即拧住对方手腕时,100欧元和50欧元的钞票从她手中飘落下来。而我钱包里本来还有几张 10欧元纸钞(却没被偷走),看来他们还是有选择性的(专挑大票)。在我对这种“指尖绝技”瞠目结舌之时,只见这个 “三人组”已逃之夭夭了。
•捩じ上げる:用力┏扭〔拧〕上去yònglì niǔ〔nǐng〕shàngqu.
相手の腕をぐっと/使劲把对方的胳膊gēbo反拧上去.
•はらり:1 軽いものが落ちたり垂れ下がったりするさま。「―と写真が落ちる」「涙が―とこぼれる」「髪が―と顔にかかる」
2 動作が軽く、すばやいさま
・ 「―と気早に立って」〈鏡花・婦系図〉
3 まったく。また、すっかり。
・ 「主人たる人の心と、下男の心と、ものごと―と違ひて」〈咄・醒睡笑・一〉
•絶句:Ⅰ《名》绝(句)jué(jù).
七言絶句/七(言)绝(句).⇒し(詩)
Ⅱ《名》《自動》
(1)〔演技での〕忘词wàng cí,没méi词.
あの役者は舞台でときどき絶句する/那个演员在舞台上时常忘词儿.
(2)〔話の途中での〕[詰まって]张口结舌zhāng kǒu jié shé『成』;[何も言えない]无话可说wú huà kěshuō;[途中で]下言接不了上语xiàyán jiēbuliǎo shàngyǔ;[だんまり]变得哑口无言yǎ kǒu wú yán.
コメントを求められた外相はあまりのことに絶句したまま,ひと言も言えなかった/被要求发表意见的外相,由于过于突然,当场张口结舌,一句话也没说出来.
▼26年ぶりの安値に沈んだ日経平均が昨日、一瞬だが7千円を割った。1年前、株価の6千円台、7千円台といえば「1万」を省いた言い方だった。それが省く前から消えている。投資家は、金融危機という米国発のスリ団に万札をやられた思いだろう。連中、1日で世界を一周する足を持つからタチが悪い
26 年后在持续低价影响下日经股指瞬间跌破七千点大关。一年前,如果有人说股指在6000点或7000点的话绝对是对“一万点”的省略说法。但这次还未省略却已经消失殆尽了。投资者们大多认为所谓金融危机就是美国引发的盗窃集团事件所致。这些家伙们最令人气愤的就是拥有一双一天内能跑遍全世界的“飞毛腿”
▼地獄のふちをのぞいた株価は、首をすくめて上昇に転じた。上げ幅はしかし、ここ4営業日の落ち込みに対して2割。円高もあって相場の先は見えない。連日の神経質な動きは、市場の震えか痙攣(けいれん)か
身处地狱边缘的股票价格,“缩脖”后略有上涨。但其上涨幅度仅为前几日跌幅价格的两成。日元增殖后股票市场的未来似乎无法预见。而近日来市场近乎于神经质的一系列动作究竟是颤抖还是痉挛呢。
▼東証1部の時価総額から1年で約300兆円が飛んだ。生産、雇用、消費。生の経済活動が被る傷も浅くは済むまい。内外の自動車産業の苦境がすべてを物語る
从东证1部的实际价格总额来看一年约损失300亿万日元。生产,雇用,消费等等。。。股票下跌对生活上的经济活动影响虽然不大但仍未结束,而国内外各大汽车产业可以说是身陷绝境。
▼株価が同じ水準にあった82年春、500円硬貨が発行された。思えばこの年を挟む70~80年代、株価は500円玉を毎年積み上げるように1万円を目ざした。緩やかだが堅実な、そして懐かしい右肩上がりの時代である
记得上次股指“跳水”至与现在持平还是在1982年春季,那时面值为500点通货刚刚上市。现在想想在七八十年代股票价格就已经以每500点的幅度上升,目标直指10000点。虽然上升速度缓慢但却平稳,可谓令人怀念的金融景气时期。
•右肩上がり:不断上升,不断看好;上涨;很景气
〔補説〕 数値の推移を示すグラフが、右側へゆくにつれ、上がることから
景気・売上高などが年を追うごとに拡大してゆくことの形容。
→右上がり[大辞林]
▼ドイツの詩人シラーは「時の歩み」をこう詠じた。〈未来はためらいつつ近づき、現在は矢のように速く飛び去り、過去は永久に静かに立っている〉。時は金なりと言うが、飛び去った金はいずれ、ためらいながら戻って来る……のだろうか。
德国诗人席勒曾在诗歌《时空漫步》中这样这样写道“未来通常在不经意间靠近,现在则如离弦之箭一般穿梭而去,留下的永远是静静矗立在那里的过去。”有人说“寸金难买寸光阴”难道飞走了的金子还能有回来的一天吗?
解说:ヨーハン・クリストフ・フリードリヒ・フォン・シラー(Johann Christoph Friedrich von Schiller、1759年11月10日 - 1805年5月9日)は、ドイツの詩人、歴史学者、劇作家、思想家。ゲーテと並ぶドイツ古典主義(Weimarer Klassik)の代表者
である(初