【2008年11月2日(日)付】

「珍しく」と言うべきか、時代小説の藤沢周平に政治がらみのキナ臭い問題に触れた随筆がある。先の戦争をめぐる教科書問題で騒然となったとき、〈(蹂(じゅう)躙(りん)された)相手の立場に立ってみることを自虐的などというのは軽率な言い方である〉と、その歴史観の一端を述べている▼そうした相手の立場はおろか、自らの立場も、日本政府の立場もおかまいなしの「突撃」には驚いた。航空自衛隊トップの田母神(たもがみ)俊雄・航空幕僚長が「我が国が侵略国家だったというのは濡(ぬ)れ衣(ぎぬ)」と主張する論文を書いて更迭された▼その名前に記憶のない方も、思い出すことがあろう。4月に名古屋高裁が「空自のイラクでの活動は違憲」と判断したとき、記者会見で「そんなの関係ねえ」とやった人だ。周囲から「猛将」と評されているらしい▼あれは失言だったのかも知れない。だが今度は「思っていることを国民や国家のために書いた」そうだ。民間の懸賞に応募し、最優秀に選ばれて公表された。個人としての応募というが、肩書は衣服と違う。都合良く脱いだり着たりできるはずもない▼内容はアジア諸国への侵略などを謝罪した政府見解を否定するものだ。この手の認識は国内では留飲を下げる者がいても、国境まで行けば力を失う。その先へは広がらぬ独善にほかなるまい▼加害の意識を欠き、事実に目をつむる内向きの論理は危険なものになりかねない。冒頭の藤沢周平は、いつもの穏やかな筆致ながら、そう案じていた。不祥事続きの自衛隊である。後任は猛将より、知将が望ましい。

【天声人語2008年11月2日 又一位航空自卫队长官倒下了!】

▼「珍しく」と言うべきか、時代小説の藤沢周平に政治がらみのキナ臭い問題に触れた随筆がある。先の戦争をめぐる教科書問題で騒然となったとき、〈(蹂(じゅう)躙(りん)された)相手の立場に立ってみることを自虐的などというのは軽率な言い方である〉と、その歴史観の一端を述べている
时代小说作家藤沢周平涉及政治领域内充满火药味儿问题的随笔十分罕见。正当围绕二战历史的教科书问题各种观点正沸沸扬扬之时,他从历史观的高度阐述了自己的观点:站在被蹂躏的那一方说话被称作是自虐的这种说法是轻率的
•がらみ:(1)〔ぐるみ〕包括在内bāokuò zàinèi.
  袋搦み売る/连口袋卖.
(2)〔…くらい〕接近jiējìn,上下shàngxià,左右zuǒyòu.
  四十搦みの男/四十上下岁的男人.
•キナ臭い:(1)〔こげくさい〕焦臭jiāoxiù,煳味húwèi.
  なんだかきな臭いぞ/有煳味!什么煳了!
(2)〔戦火のけはい〕有火药味yǒu huǒyàowèi,有战争的气味
•骚然:吵吵嚷嚷chāochāorāngrāng『口』.
  物情騒然/群情骚然.
  会場は急に騒然となった/会场立即陷于混乱;会场一时为之wèizhī骚然.
  騒然として聞きとれない/吵吵嚷嚷听不清楚.

▼そうした相手の立場はおろか、自らの立場も、日本政府の立場もおかまいなしの「突撃」には驚いた。航空自衛隊トップの田母神(たもがみ)俊雄・航空幕僚長が「我が国が侵略国家だったというのは濡(ぬ)れ衣(ぎぬ)」と主張する論文を書いて更迭された
姑且不论对方立场如何,自己的立场和日本政府的立场也震惊于这一场猝不及防的“突然袭击”。空中自卫队首席代表—航空参谋长田母神俊雄因在论文中主张“说我国是侵略国简直是天大的冤枉”被调职。
•冤罪yuānzuì,冤枉yuānwang.
  それはまったく濡れ衣だよ/那完全是冤枉啊.
濡れ衣を着せる 冤枉人.
  彼女に濡れ衣を着せる/冤枉她.
濡れ衣を着せられる 受冤枉.
  彼は窃盗の濡れ衣を着せられて一生を棒にふった/他被扣上kòushang盗窃dàoqiè的冤枉罪名zuìmíng,把这一辈子给毁huǐ了.


▼その名前に記憶のない方も、思い出すことがあろう。4月に名古屋高裁が「空自のイラクでの活動は違憲」と判断したとき、記者会見で「そんなの関係ねえ」とやった人だ。周囲から「猛将」と評されているらしい
也许大家没记住他的名字,但一定还记得下面这件事吧。今年四月名古屋高等法院判定“空军自卫队在伊拉克的活动违反宪法”后,会见记者时大呼“谁管你这么多”的也是这位田母神。据说他因此被称为“猛将”。
▼あれは失言だったのかも知れない。だが今度は「思っていることを国民や国家のために書いた」そうだ。民間の懸賞に応募し、最優秀に選ばれて公表された。個人としての応募というが、肩書は衣服と違う。都合良く脱いだり着たりできるはずもない
或许他之前是一时说错了话。但这次据说是 “为了国民和国家着想才这么写的”。空中自卫队的成员都是通过民间招募后,从中择优后,张榜公布的人才。虽然开始是作为个人应召入伍的,但官衔毕竟不同于衣服,不该是想穿就穿想脱就脱的。
▼内容はアジア諸国への侵略などを謝罪した政府見解を否定するものだ。この手の認識は国内では留飲を下げる者がいても、国境まで行けば力を失う。その先へは広がらぬ独善にほかなるまい
这篇论文主要内容是否定政府认为应当对二战时期日本侵略亚洲各国之事表示道歉这一观点。对于这类看法如果有人在国内发泄的话也许会有人拍手称快,但如果扩散到国境周围的话则失去了效力。为了不令其继续扩散也就只能独善其身了。
•この手:(1)〔このやり方〕这方法zhè fāngfǎ,这一手zhè yī shǒu.
  この手で攻めよう/用这一手来进攻吧.
(2)〔このたぐい〕这种zhèzhǒng,这类zhèlèi.
  この手の品はまだありますか/这一种商品还有吗?
•留飲が下がる: (郁愤yùfèn得到发泄fāxiè后)心情畅快.
  ああ,これで留飲が下がった/啊,这回可痛快了
•溜飲が下がる=これらの症状が改善され 気分が良くなる事。
転じて 腹に据えかねる事態や 許し難い相手等に天罰が下るが如く
社会的制裁やら 経済的等に困窮していく様を見聞きして
日頃の不平不満が解消した様を 溜飲を下げる っと言います.

▼加害の意識を欠き、事実に目をつむる内向きの論理は危険なものになりかねない。冒頭の藤沢周平は、いつもの穏やかな筆致ながら、そう案じていた。不祥事続きの自衛隊である。後任は猛将より、知将が望ましい。
缺乏加害意识,只是一味的对所谓“事实”剑拔弩张的这种理论又是也是十分危险的。前面提到的藤沢周平,始终用平和的笔锋阐述自己的见解。如今的自卫队真可谓多灾多难。因此我们希望下一位航空参谋长是一位谋士而并非一介武夫。
1 内側に向けること、または、向いていること。
2 内輪のこと。家事。私事