【2008年11月7日(金)付】

東京にある日本民藝(みんげい)館をつくった柳宗悦(やなぎ・むねよし)は、身の回りで使われている陶器や木工品など、日常の道具に美しさを見いだした人だ。それら民衆工芸の美しさは、人の手で作られるからこそだと『手仕事の日本』(岩波文庫)に書いている▼手が機械と違うのは、心とつながっているからだと柳は言う。〈手はただ動くのではなく、いつも奥に心が控えていて……働きに悦(よろこ)びを与えたり、また道徳を守らせたりする〉。手仕事とは心の仕事にほかならないと、名高い目利きは唱えている▼その「手と心」の関係について、米国から愉快なニュースが届いた。手が温まっている人は、冷えている人に比べて、他人に対して優しくなるそうだ。大学の研究グループが実験結果を発表した▼たとえばホットコーヒーのカップを持った人は、アイスの人より他人を好意的に評価する傾向が見られたという。温湿布と冷湿布でも似た傾向が現れた。やはり手の奥には心が控えているのか。手のぬくもりは無意識のうちに心に結びつくらしい▼北からは雪の便りが届いて、きょうは立冬。季節の巡りは順調らしく、近所の雑木林は緑がだいぶ色あせた。通り雨がぱらぱらと枯れ葉を鳴らすような日には、温かいカップを両手でそっと包むのが「心」にはいいようである▼〈「寒いね」と話しかければ「寒いね」と答える人のいるあたたかさ〉という歌が俵万智さんにあった。白い息に手をこすり合わせる2人が浮かぶ。「寒いね」の会話もいま、北から南へと、急ぎ足で列島を下っているのに違いない。

【天声人語2008年11月7日 冬至 手与心的温暖】

▼東京にある日本民藝(みんげい)館をつくった柳宗悦(やなぎ・むねよし)は、身の回りで使われている陶器や木工品など、日常の道具に美しさを見いだした人だ。それら民衆工芸の美しさは、人の手で作られるからこそだと『手仕事の日本』(岩波文庫)に書いている
位于东京的日本民间艺术馆创始人柳宗悦是一个善于从身边使用的陶器,木制品中发现独特之美的人。他在著作《日本手工艺》(岩波文库)中提到民间工艺的美丽,正是因为(它)是由人们手工制作而成。
▼手が機械と違うのは、心とつながっているからだと柳は言う。〈手はただ動くのではなく、いつも奥に心が控えていて……働きに悦(よろこ)びを与えたり、また道徳を守らせたりする〉。手仕事とは心の仕事にほかならないと、名高い目利きは唱えている
柳宗悦说手工制造与机械制造最根本的差别就在于(手工业制造)与心相连。“(这种创作中)手不仅仅是机械的运动,而是由内心来控制……(心)通过指尖(向作品内)注入喜悦,并(通过反复修改)令它们循规蹈矩。”这位著名的鉴赏家倡导手工艺行业正是心的职业。
▼その「手と心」の関係について、米国から愉快なニュースが届いた。手が温まっている人は、冷えている人に比べて、他人に対して優しくなるそうだ。大学の研究グループが実験結果を発表した
关于“手和心”的关系,从美国传来了一条愉快的新闻。据美国某大学研究小组发表的实验结果显示,手热的人比手冷的人更平易近人。
▼たとえばホットコーヒーのカップを持った人は、アイスの人より他人を好意的に評価する傾向が見られたという。温湿布と冷湿布でも似た傾向が現れた。やはり手の奥には心が控えているのか。手のぬくもりは無意識のうちに心に結びつくらしい
例如外人会觉得手握热咖啡杯的人比手握冰激凌的人和蔼可亲。而且手握温暖的湿布和冰冷的湿布也会带给他人同样的感觉。果然是心控制了手吗。似乎掌心的温热在无意识之间与心紧密贴合了。
温和wēnhé,温暖wēnnuǎn,暖和气儿nuǎnhuo qìr,暖气儿nuǎnqìr.
お日さまの温もり/太阳的温暖.
家庭の温もり/家庭的温暖.
布団に温もりが残っている/被褥bèirù〔被窝〕里还留有热气;铺盖里还有点温乎气儿.

▼北からは雪の便りが届いて、きょうは立冬。季節の巡りは順調らしく、近所の雑木林は緑がだいぶ色あせた。通り雨がぱらぱらと枯れ葉を鳴らすような日には、温かいカップを両手でそっと包むのが「心」にはいいようである
一场自北而来的大雪带来了一条消息,今天立冬了。季节的循环似乎总是那么准,附近杂木林的绿色几乎全部消退了。在这样一个小阵雨啪啦啪啦落下,枯叶沙沙作响的日子里,双手怀抱一个温暖的水杯也会令“心”变得温暖。
▼〈「寒いね」と話しかければ「寒いね」と答える人のいるあたたかさ〉という歌が俵万智さんにあった。白い息に手をこすり合わせる2人が浮かぶ。「寒いね」の会話もいま、北から南へと、急ぎ足で列島を下っているのに違いない。
诗人俵万智有这样一首诗歌“两人相遇时最温暖的莫过于相互间的一句问候‘今天真冷啊’”每每读过(这首诗)之后我脑海都会浮现出两个人将手攥在一起用哈气取暖的场景。现在起这种“真冷啊”的寒暄语,一定正以迅雷不及掩耳之势向整个日本列岛蔓延。

解说:冬至(とうじ)は、二十四節気の一つ。12月22日ごろ。および、この日から小寒までの期間。
太陽黄経が270度のときで、北半球では太陽の南中高度が最も低く、一年の間で昼が最も短く夜が最も長くなる日(実際には数日ずれる。詳しくは昼を参照)。『暦便覧』では「日南の限りを行て、日の短きの至りなれば也」と説明している。
日本では、この日に柚子湯に入り、冬至粥(小豆粥)や南瓜を食べると風邪をひかないと言われている。中国北方では餃子を、南方では湯圓(餡の入った団子をゆでたもの)を食べる習慣がある。
秋分から春分までの間、北半球では太陽は真東からやや南寄りの方角から上り、真西からやや南寄りの方角に沈む。冬至の日にはこの日の出(日出)・日の入り(日没)の方角が最も南寄りになる。また南回帰線上の観測者から見ると、冬至の日の太陽は正午に天頂を通過する。冬至の日には北緯66.6度以北の北極圏全域で極夜となり、南緯66.6度以南の南極圏全域で白夜となる。
なお、1年で日の出の時刻が最も遅い日・日の入りの時刻が最も早い日と、冬至の日とは一致しない。日本では、日の出が最も遅い日は冬至の半月後頃であり、日の入りが最も早い日は冬至の半月前頃である。
また、南半球では昼と夜の長さの関係が北半球と逆転するため、天文学的な冬至とは別に、慣習的に「一年中で一番昼が短く夜が長い日」のことを冬至と呼ぶことがある。すなわち、南半球が慣習的な意味での冬至を迎える日は本来の夏至である。