【2008年11月18日(火)付】
早世したスポーツライター山際淳司に『ナックルボールを風に』と題する一冊がある。ナックルボールとは野球の投手が投げる球種の一つ。ふつうは、拳(こぶし)を握った状態で親指と小指だけを伸ばし、球を挟んで投げる▼山際の著書によれば、「指先で球に回転を与えないように押し出すのだ。あとは空気の流れと湿度が球を運んでゆく過程で、思わぬ方向に回転を与え、球が意外な変化を見せる」となる。つまり、投げた本人にもどんな変化をするのか分からない、不思議な球なのである▼その球を操る16歳の女子高生投手が、プロ野球に行くとの報道には驚いた。来年春に開幕する関西独立リーグのドラフト会議で、横浜市の吉田えりさんが神戸のチームに指名された。入団には前向きだそうだ▼右下手投げから繰り出すナックルは、捕手が後逸するほどに、揺れて落ちるらしい。球速は最高101キロというが、ひらりとかわす球に速さはいらない。「柔よく剛を制す」投球がどれほど通用するものか、興味がわく▼思えばいまは、彼女自身がナックルボールのようなものだろう。契約すれば、男とプレーする日本初の女性プロ選手になる。話題に終わらず活躍するよう、球のゆくえに期待をしたい▼投手が投げ、捕手が返すボールを、劇作家の寺山修司は2人の会話にたとえた。会話に嫉妬(しっと)した男が、2人の間に立ってボールをはじき飛ばそうとした。それが野球の始まりだと、ユニークな想像力で見立てている。「嫉妬のバット」が空を切る巧投をいつか見られたら楽しいと思う。
【天声人語2008年11月18日 16岁少女将进入职业棒球队】
▼早世したスポーツライター山際淳司に『ナックルボールを風に』と題する一冊がある。ナックルボールとは野球の投手が投げる球種の一つ。ふつうは、拳(こぶし)を握った状態で親指と小指だけを伸ばし、球を挟んで投げる
英年早逝的运动撰稿人山際淳司著有一本书,名为《风中的指关节投球术》。所谓的关节投球术是棒球选手投球的一种方式。选手在做这一动作时执球之手通常保持握拳状,只伸出拇指和小指夹着球并投出去。
作家zuòjiā;作者zuòzhě;记者jìzhě;撰稿人zhuàngǎorén.
シナリオ・writer/剧本作者.
ゴースト・writer/代笔人.
コピー・writer/专写广告稿的人
ナックル:指(关)节
▼山際の著書によれば、「指先で球に回転を与えないように押し出すのだ。あとは空気の流れと湿度が球を運んでゆく過程で、思わぬ方向に回転を与え、球が意外な変化を見せる」となる。つまり、投げた本人にもどんな変化をするのか分からない、不思議な球なのである
据该书介绍“(使用这种投球术的关键是)指尖要尽量不令球旋转,直推出去。投出的球会在气流以及湿度的带动下向前运动,且有可能被风吹到意想不到的方向,产生意外的变化。”。也就是说,这种球是投出后就连投手本人也不知道将会发生什么样的变化的一种神奇投球术。
(1)〔つきだす〕(从下面)顶出来dǐngchūlai,凸出来tūchūlai.
(2)〔大ぜいで出かける〕蜂拥而出fēng yōng ér chū,全体出动quántǐ chūdòng.
(3)〔押して出す〕推出去tuīchūqu,推到外面tuīdào wàimian;推到前面qiánmian,突出tūchū.
独自の外交政策を押し出す/打出独自的外交政策.
相手を土俵の外へ押し出す/把对方推出摔交场外去.
(4)〔しぼりだす〕挤出jǐchū.
汁を押し出す/把汁儿挤出.
うみを押し出す/挤脓nóng.
歯みがきをチューブから押し出す/把牙膏yágāo从锡管xīguǎn挤出.
(5)〔ついてだす〕撑出chēngchū.
▼その球を操る16歳の女子高生投手が、プロ野球に行くとの報道には驚いた。来年春に開幕する関西独立リーグのドラフト会議で、横浜市の吉田えりさんが神戸のチームに指名された。入団には前向きだそうだ
我们看到今日关于善用这一投球术的16岁高中女投手要进入职业棒球队的报道后大吃一惊。据说在明年春季召开的棒球联盟选手招募大会上,来自横滨的吉田绘里被神户队指名招入,距离真正入团已近在咫尺。
リーグ:同盟tóngméng,联盟liánméng,联合会liánhéhuì;[競技の]竞赛jìngsài联盟.
ドラフト:(1)〔草稿〕草稿cǎogǎo,草案cǎo’àn.
(2)〔図案〕草图cǎotú,图案tú’àn.
(3)〔選拔〕选拔xuǎnbá,征募
▼右下手投げから繰り出すナックルは、捕手が後逸するほどに、揺れて落ちるらしい。球速は最高101キロというが、ひらりとかわす球に速さはいらない。「柔よく剛を制す」投球がどれほど通用するものか、興味がわく
利用右下方投球的方式连续投球的指关节投球术如果失败,很可能摇晃的让捕手无法接住。虽说此球的最快能达到每秒101米,但这种轻飘飘的变化球根本就不需要速度太快。难道“以柔克刚”的战术也能炉火纯青的运用在投球上吗?这引起了我极大的兴趣。
(1)〔順に引き出す〕陆续放出lùxù fàngchū,抽出chōuchū(绳子shéngzi、线等).
釣り糸を繰り出す/撒sā出钓diào鱼线.
ボビンの先から糸を繰り出す/从绕线管ràoxiànguǎn的尖端jiānduān不断放出线来.
(2)〔つぎつぎに送る〕陆续送出sòngchū,派出pàichū,投入tóurù.
新手の兵を繰り出す/派出生力军.
(3)〔つき出す〕猛地一刺měngde yī cì,一扎yī zhā.
槍を繰り出す/挺tǐng长矛而刺.
(4)〔大ぜいで〕(多数人)一起出发yīqǐ chūfā;陆续出去lùxù chūqu.
花見に繰り出す/大家都去观赏樱花.
連休で街に人がどっと繰り出す/因为是连续休假,街上人山人海r
ひらり:1 すばやく身をかわしたり飛び移ったりするさま。「―と馬に飛び乗る」2 物が軽くひるがえるさま。「木の葉が―と舞い落ちる」
▼思えばいまは、彼女自身がナックルボールのようなものだろう。契約すれば、男とプレーする日本初の女性プロ選手になる。話題に終わらず活躍するよう、球のゆくえに期待をしたい
仔细想想的话现在的她就和指关节投球术一样。只要签了合同,他就成为了全日本首位能和男人一起打棒球的职业女选手。我们期望她投出的每一个变化球都能成为永不终结的鲜活话题。
▼ 投手が投げ、捕手が返すボールを、劇作家の寺山修司は2人の会話にたとえた。会話に嫉妬(しっと)した男が、2人の間に立ってボールをはじき飛ばそうとした。それが野球の始まりだと、ユニークな想像力で見立てている。「
嫉妬のバット」が空を切る巧投をいつか見られたら楽しいと思う。
劇作家寺山修司曾把投手投出,捕手投回的球比喻为“交流”。一直嫉妒他们的男子于是站在这二人之间要把球打飞。认为这就是棒球起源的这种独特想象力非常引人注目。如果此时能看到令“嫉妒球棒”静止的“奇特投球术”的话也是一大乐事。
球棒qiúbàng.
batをかたく握る/紧握jǐnwò球棒.
batを振る/挥动huīdòng球棒.
ボールをbatで打つ/用球棒击球
解说:【兵庫】女子プロ野球選手誕生へ
16日、神戸の中田監督(右)から祝福される吉田
プロ野球・関西独立リーグの神戸9クルーズが16日のドラフト会議で吉田えり(16)=神奈川県立川崎北高2年=を指名し、男子選手と一緒にプレーする国内初の女子プロ野球選手の誕生が確実になった。話題先行との見方もあるが、吉田は何よりも実力で夢への切符を勝ち取った。関係者は他の女子選手への波及効果も期待する。
今月2~4日、神戸市であったリーグのトライアウトで、吉田は延べ8人の打者と対戦。右下手からの80キロ台のナックルボールで幻惑し、無安打に封じた。元阪神投手で神戸の中田監督は「下からナックルを投げるのは難しい。本当に揺れながら落ちるし、おもしろい戦力になる」と評価する。
1950年に始まった国内の女子プロ野球は、一時は20チーム以上もあったが、資金難や興行トラブルなどを理由に、わずか2年でアマチュア化された。男女の雇用機会均等が叫ばれる中、91年に野球協約が改正され、プロ野球への参加がOKになり、入団テストを受ける選手も現れた。
女子選手について、体力面の不安や危険性を指摘する声はある。ただ、今回のトライアウトにソフトボールの実業団トップクラスの選手が参加するなど、潜在的な関心は高い。吉田の活躍いかんでは、運営面で独自性を追求する独立リーグが、女子選手の思いを実現する場として定着する可能性はある。【井沢真】