【2008年11月21日(金)付】

今は昔の感もあるが、ブッシュ米大統領が瞬時に国民の心をつかんだことがある。9・11テロの後、がれきの上でハンドマイクを握り、国民と犠牲者に語りかけた▼「君たちの声が私に聞こえる。世界が君たちの声を聞く。ビルを倒した連中も間もなく我々の声を聞く」。のちの政策の是非は置いて、動揺する国民に強い言葉を送ったのは、国を率いる者の大切な役目だったのに違いない▼ひるがえって、元厚生事務次官宅が襲われた事件での麻生首相は、どうも鈍い。丸1日たってようやく「二つの関係が明確になった段階では、テロと見なし断固たる処置をとる」。だが続けて「今の段階では単なる傷害か何とかって、まだ決まってないんだろ。よく知らねえけど」▼暴力を憎むこと、首相が人後に落ちるとは思わない。空き樽は音が高いともいう。声高に叫べばいいものでもないが、「よく知らねえけど」は首相の言葉ではあるまい。日本で一番情報の集まるはずの人なのに、である▼人間観察の達人だったフランスのラ・ロシュフコーは〈沈黙は自分自身を警戒する人にとって最良の安全策である〉と言い残した。だが、いくら自分の舌が心配でも、政治家に沈黙を選ぶすべはない。語らねば催促され、語れば吟味される。世の採点は甘くはない▼さても、と言うべきか。首相はまた「(医師は)社会的常識が欠落している人が多い」とやった。後で謝罪したが「現場の勇気をくじく」と厚労相も苦り顔だ。ぶれたり、困らせたりの迷言が、とみに目立つのはどうしたことか。

【天声人語2008年11月21日 麻生首相与元厚生长官宅邸被袭事件】

▼今は昔の感もあるが、ブッシュ米大統領が瞬時に国民の心をつかんだことがある。9・11テロの後、がれきの上でハンドマイクを握り、国民と犠牲者に語りかけた
现在想想也许是过去时了,美国总统布什上任之初也曾有过一段和国民内心紧密相连的时期。记得在911恐怖袭击之后,他曾站在瓦砾之上握着麦克风对国民和牺牲者家属这样说道。(接下文)
瓦礫] 【がれき(1)〔かわらと小石〕瓦砾wǎlì.
戦争で都市が瓦礫の山となった/由于战争城市变成了┏一堆瓦砾〔一片废墟fèixū〕.
(2)〔値うちのないもの〕一文不值的东

▼「君たちの声が私に聞こえる。世界が君たちの声を聞く。ビルを倒した連中も間もなく我々の声を聞く」。のちの政策の是非は置いて、動揺する国民に強い言葉を送ったのは、国を率いる者の大切な役目だったのに違いない
“我能听到你们的声音,全世界也听得到你们的声音,摧毁大楼的那群家伙们也不久将听到我们的声音”暂时撇开之后美国政府的具体政策对错与否,这种向国民说出这样足以撼动内心的强有力的语言,对一个国家领导者来说无疑具有巨大的作用。
▼ひるがえって、元厚生事務次官宅が襲われた事件での麻生首相は、どうも鈍い。丸1日たってようやく「二つの関係が明確になった段階では、テロと見なし断固たる処置をとる」。だが続けて「今の段階では単なる傷害か何とかって、まだ決まってないんだろ。よく知らねえけど」
相反,对于前厚生省事物次官宅邸被袭一事,麻生首相的反映过于迟钝了。他在事件发生一整天后才终于说出了一句“现在两事件的关系已十分明确,我们会将此事件视为恐怖袭击采取果断的措施处理。”但接下来他又说“但就目前来说可能只构成伤害事件,还没有对事件定性吧。具体的我还不太清楚。”
(1)〔きっぱりとしたようす〕断然duànrán;[態度が]毅然yìrán.
断固たる措置をとる/采取cǎiqǔ坚决的措施cuòshī.
断固実行する/坚决实行.
断固として要求する/坚决要求.
(2)〔かたいようす〕坚决jiānjué,决然juérán.
断固たる決心/坚强的决心.
断固として説を曲げない/顽强wánqiáng坚持自己的意见.
断固反対する/坚决反对
.
▼暴力を憎むこと、首相が人後に落ちるとは思わない。空き樽は音が高いともいう。声高に叫べばいいものでもないが、「よく知らねえけど」は首相の言葉ではあるまい。日本で一番情報の集まるはずの人なのに、である
我并不认为首相对于暴力的憎恶之心低于众人。正所谓“空瓶子音高”。声音叫的高未必是件好事,但是首相不应该说“我也不太清楚”。他本应该是消息最灵通的人。
▼人間観察の達人だったフランスのラ・ロシュフコーは〈沈黙は自分自身を警戒する人にとって最良の安全策である〉と言い残した。だが、いくら自分の舌が心配でも、政治家に沈黙を選ぶすべはない。語らねば催促され、語れば吟味される。世の採点は甘くはない
堪称洞察人类内心专家的法国弗朗索瓦公爵6世曾这样说过“沉默是对于明哲保身的人来说最好的对策”。但是,无论怎样担心自己“祸从口出”,对为一位政治家来说最不应该的就是选择沉默。政治家如果缄默不语,则会被世人催促,但如果说了又会被世人仔细斟酌揣测。可见世人对政治家的评判并不宽松。
▼ さても、と言うべきか。首相はまた「(医師は)社会的常識が欠落している人が多い」とやった。後で謝罪したが「現場の勇気をくじく」と厚労相も苦り顔だ。ぶれたり、困らせたりの迷言が、とみに目立つのはどうしたことか。
那,究竟该怎么说才好呢?首相还说错过一句话,“(很多医生)都缺乏社会常识”虽然后来他因此道歉,但一句“(他们)的确缺少直面现场的勇气”又令厚生劳动局的大臣面露苦色了。可是对于这种忽上忽下,令人为难的“暧昧名言”愈发明显的现状究竟是怎么回事呢?
さて‐も
[感]なんとまあ。さてさて。「―みごとな花だ」
[副]そうであっても。そのままでも。
・ 「思ひわび―命はあるものをうきにたへぬは涙なりけり」〈千載・恋三〉
[接](「扨も」「扠も」「偖も」とも書く)それにしても。それはそうと。
・ 「うれしく対面(たいめ)したるかな。―、いくつにかなり給ひぬる」〈大鏡・序

解说
ラ・ロシュフコー(ラ・ロシュフコー公爵フランソワ6世(François VI, duc de La Rochefoucauld), 1613年9月15日-1680年3月16日または17日)は、フランスの貴族、モラリスト文学者。名門貴族の生まれであり、多くの戦いに参加した後、いわゆる『箴言集(しんげんしゅう)』を執筆した。彼の作品に見られる辛辣な人間観察には、リシュリューと対立して2年間の謹慎処分を受けたことや、フロンドの乱でマザランと対立したことなどで味わった苦難が反映されているとも言われる。