【2008年11月29日(土)付】
「鍍金」と漢字で書くと首をひねる方もおられようが、メッキと読む。古来の技術で、奈良の大仏を造ったときにも用いられた。だが、いつしか、お粗末な中身を隠して外面を繕うという、芳しくない例えに使われるようになった▼「沈黙は金。メッキがはがれないように」。自民党内からも「メッキ呼ばわり」の麻生首相は、苦しい政権運営が続く。名言なら「一日一言」もありがたいが、これでもかの放言や朝令暮改には身内もたまらないのだろう▼経済危機に向けた第2次補正予算案の国会提出は先送りする。解散・総選挙もずるずる延ばす。政府と与党は「政権」という城に立てこもった印象だ。ならばと、民主党は籠城(ろうじょう)する堀を埋め、門をこじ開けにかかる▼麻生首相と小沢代表がきのう、初の党首討論に臨んだ。「この人の話は危ねえ」「そのへんのチンピラ」と互いをけなし合う仲だ。野天の真剣勝負を期待したが、道場の申し合いだった。質疑は堂々巡りして、与野党応援団のヤジばかりが大きい▼民主主義の基礎は「他の人が自分より賢いかもしれないと考える心の用意」だと、戦後すぐの英国首相だったアトリーは言った(『政治の品位』内田満)。言い負かそうと力むばかりでなく、他の言葉をしっかり受け止める資質が政治家には欠かせない▼条件反射のように湧(わ)いた盛大なヤジに、日本の政治が心配になる。言論の府でも「聞く耳持たず」がまかり通るのか。いまや政治全体がメッキ仕立てになっているのなら、深刻さは首相の放言どころの話ではない。
【天声人語2008年11月29日 政治不应金玉其外】
▼「鍍金」と漢字で書くと首をひねる方もおられようが、メッキと読む。古来の技術で、奈良の大仏を造ったときにも用いられた。だが、いつしか、お粗末な中身を隠して外面を繕うという、芳しくない例えに使われるようになった
“镀金”这个词很多人看后都会稍微迟疑。其实它就是我们所说的メッキ。这种古代技术曾经在建造奈良大佛时使用。但在不知不觉之中,它渐渐被用作隐藏粗糙的内在,只做表面文章等不名誉之事上。
メッキ:(1)〈冶〉镀dù.
金鍍金のピン/镀金的别针.
銀鍍金のさじ/镀银的匙.
銅に銀を鍍金する/在铜上镀银.
(2)〔うわべだけかざる〕金玉其外,败絮其中jīn yù qí wài,bài xù qí zhōng『成』,虚有其表xū yǒu qí biǎo『成』.
鍍金がはげる/原形毕露yuán xíng bì lù;现原形.
とかく鍍金ははげやすい/伪装总是容易暴露的.
首を捻・る
考え込む。納得しかねて思案する
いつしか:不知不觉bù zhī bù jué.
何時しか年月がたった/不知不觉时光已逝shì.
道にまよっているうちに何時しか日もくれた/迷了路不觉天黑了.
(1)〔香りがよい〕芳香fāngxiāng,芬芳fēnfāng.
芳しいばらの香り/芳香的玫瑰méigui花味.
(2)〔好ましい〕好hǎo;有声誉yǒu shēngyù,名誉míngyù好.
芳しくない評判/不好的风声; 声誉不好的传说chuánshuō.
1学期はあまり芳しくない成績だった/第一学期的成绩不大好.
芳しい成果が上がらない/没取得满意的成果; 没得到可喜的成果.
芳しからぬできごと/丑事chǒushì;丢脸diūliǎn的事情.
▼「沈黙は金。メッキがはがれないように」。自民党内からも「メッキ呼ばわり」の麻生首相は、苦しい政権運営が続く。名言なら「一日一言」もありがたいが、これでもかの放言や朝令暮改には身内もたまらないのだろう
有句话叫“沉默是金,但不要金玉其外”。另外自民党内声称要“呼唤镀金”的麻生首相,正艰难的继续经营着自己的政权。如果提到名言的话“一日一言”值得庆幸,但如果是胡言乱语和朝令夕改的话就连亲人也无法忍受。
はがれる:剥落bōluò,揭下jiēxià.
切手のはがれた手紙/邮票掉了的信件.
壁紙が剥がれる/壁纸剥落.
信口开河xìn kǒu kāi hé『成』,信口胡说xìnkǒu húshuō,随便说说suíbiàn shuōshuo,随口乱说suíkǒu luànshuō;(说)不负责任的话bù fù zérèn de huà,(说)大话dàhuà;失言shīyán.
記者会見の席上で放言する/在记者招待会上信口开河.
その放言は聞き捨てならぬ/那种信口胡说可不能置若罔闻
朝令┏暮〔夕〕改zhāo lìng mù 〔xī〕 gǎi『成』.
朝令暮改の政策/朝令夕改的政策zhèngcè.
▼経済危機に向けた第2次補正予算案の国会提出は先送りする。解散・総選挙もずるずる延ばす。政府と与党は「政権」という城に立てこもった印象だ。ならばと、民主党は籠城(ろうじょう)する堀を埋め、門をこじ開けにかかる
针对经济危机,国会第二次修复预算草案的提出延期了。甚至解散,选举等活动都一起向后拖延。现在政府和与党都像是在埋头建立一个名叫“政权”的城堡。如斯,民主党则欲将城池周围的坑洼掩埋,冲破与党的大门。
延迟 推迟
[名]スル物事の処理・解決などを、先に延ばすこと。
打开;破裂;变声;裂缝;爆裂声;裂解;爆裂;缝;声变;乒乓;乒;裂隙;夹层;开裂;裂痕;披;漏隙;隙;缝子;吧;精锐
(1)〔城にたてこもること〕固守城池gùshǒu chéngchí.
籠城用の食糧/固守城池的粮草liángcǎo.
(2)〔外に出ないこと〕闭门不出bì mén bù chū『成』.
大雪で宿屋に籠城する/因为下大雪被困在旅店里.
山小屋に3日間籠城する/在登山小房里呆dāi了三天.
雨で1日籠城した/因为下雨一天没出门.
▼麻生首相と小沢代表がきのう、初の党首討論に臨んだ。「この人の話は危ねえ」「そのへんのチンピラ」と互いをけなし合う仲だ。野天の真剣勝負を期待したが、道場の申し合いだった。質疑は堂々巡りして、与野党応援団のヤジばかりが大きい
昨日终于盼到了麻生首相和小泽代表进行了首次党内领导讨论。这二人素来以“这个人的言论很危险”“那个流氓”等话语相互贬低对方。本来我们期待他们能在露天来一个“殊死对决”,可没想到竟演变成了一场场内的“相扑比赛”。首相回答问题时一个劲儿的兜圈子,随即引来了与野党支援团的一片倒彩。
_室外shìwài,露天lùtiān.
野天ぶろ/露天浴池yùchí.
野天興行/露天演出
ヤジ:倒彩dàocǎi,喊倒好儿hǎn dàohǎor,奚落声xīluòshēng,嘲笑声cháoxiàoshēng.
野次を飛ばす/发出奚落声; 喝hè倒彩.
野次が起こる/奚落声四起.
相撲で、力量が互角の力士どうしのけいこ
1 順にまわること。まわって再びもとにもどること。循環。「血の―が悪い」
2 あちこちをまわり歩くこと。「名所―
」
3 周囲。また、周辺。「池の―」
4 「御回(おめぐ)り」に同じ。_
▼民主主義の基礎は「他の人が自分より賢いかもしれないと考える心の用意」だと、戦後すぐの英国首相だったアトリーは言った(『政治の品位』内田満)。言い負かそうと力むばかりでなく、他の言葉をしっかり受け止める資質が政治家には欠かせない
战后继位的英国首相艾德礼曾说民主主义的基础是“要将他人也许比自己更加贤明这一想法铭记于心”(《政治的品位》内田满)一个国家,需要的不只是言语上的虚张声势,虚心接受他人的劝告是身为一个政治家不可缺少的基本条件。
(1)〔力を入れる〕使劲shǐjìn,用力yònglì,憋劲biē jìn.
うんと力んで押す/使劲推.
痛さをこらえるために顔を真赤にして力む/为了忍痛把脸憋得通红.
(2)〔気負う〕虚张声势xū zhāng shēng shì『成』;逞强chěngqiáng.
いくら力んだところで無一文ではしかたがない/无论怎样虚张声势,分文全无也没有办法.
絶対に負けないぞと力んでみせる/虚张声势,表示决不败北bàiběi
▼ 条件反射のように湧(わ)いた盛大なヤジに、日本の政治が心配になる。言論の府でも「聞く耳持たず」がまかり通るのか。いまや政治全体がメッキ仕立てになっているのなら、深刻さは首相の放言どころの話ではない。
在这样条件反射般汹涌而上的大倒彩,令我们不得不为日本的政治前景担忧。发表言论的政府单凭一句“没心情听这些”就能自圆其说吗?如果说现在日本的政治整体真的只剩下一个金碧辉煌的外壳的话,情况之深刻就不仅仅是首相的一句胡言乱语了。
解说:クローズアップ2008:初の党首討論 麻生節、封じられ 「反転攻勢」不発に
◇自民党内からも批判
麻生政権発足後初となる28日の党首討論で、麻生太郎首相は防戦に追われた。民主党の小沢一郎代表は08年度2次補正予算案の提出見送りや相次ぐ首相の失言を受け、発言の「軽さ」を追及。首相は、「麻生節」を封印する守りの戦略を取ったが、攻め手を欠き、逆に失点を重ねる「負のスパイラル」に陥った。首相は討論を反転攻勢の足がかりと考えていたが、不発に終わった。【中村篤志、田中成之】
「誰が見ても小沢の勝ちだ。首相は自ら望んだ党首討論で返り討ちにあってしまった」「衆院解散に追い込まれる可能性があるかもしれない」
党首討論での首相のやりとりについて、自民党内の評価は散々だった。首相本人は首相官邸で「テレビを通じ、私と小沢氏の考え方の違いがはっきりした」と自画自賛したが、主要閣僚の一人は「何でもっと攻めないのか」と首をひねり、自民党幹部も「いつものべらんめえ調が出ないと、首相の持ち味が出ない」とぼやいた。
28日は国会延長が議決された節目にあたる。延長国会から年明けの次期通常国会をにらみ、自民党執行部は直接対決による「反転攻勢」を目指し、首相への助言を続けてきた。討論なら首相の土俵という期待も強かった。
首相官邸も小沢氏の追及するテーマを想定し、2次補正見送りに対する「理論武装」に余念がなかった。政局優先の民主党の法案対応を批判し、2次補正提出を求める小沢氏に関連法案の早期採決を迫る--。首相官邸の特命チームは首相が切り返すための問答集まで用意していた。
だが、それが使われることはなかった。「自民党幹部から『討論の場で民主党を挑発するのをやめてほしい』とクギを刺された」(首相周辺)ためという。失言と陳謝を繰り返した首相の振るまいが首相の求心力低下につながり、自民党の介入を招く結果となった。
党首討論後、次期衆院選に危機感を強める自民党の中堅・若手は党本部で勉強会を開いた。首相批判を強める渡辺喜美元行革担当相も出席し、会合後、「首相の(2次補正を出さない)弁解は苦しかった」と記者団に振り返った。
一方、民主党は攻勢を強めた。討論後、記者会見した小沢氏は「こんなちゃらんぽらんな、無責任な、いいかげんな政治が、いつまでも国民に許容されるとは思わない」と麻生首相批判を展開し、笑顔をのぞかせた。延長国会では早期の衆院解散・総選挙を迫る方針を強調した。
◇「近いうちに4回目の就任祝いを」小沢代表、冒頭から攻め--首相低姿勢「力添えを」
「民主党の代表就任以来、3人の首相にお祝い申し上げたが、近いうちに4回目の就任祝いを言う状況になりかねない」
「首相就任のお祝いを申し上げる」と切り出した小沢氏はさっそく、先制パンチを繰り出した。求心力の衰える首相を皮肉り、その勢いで2次補正に切り込んだ。「1次補正で足りないから、2次補正を出すと話したのに、今になって『来年でいいんだ』では筋道が通らない。国民もそう思うだろう」。小沢氏は首相の「変節」を責めた。
首相は、「年内は(1次補正で)十分対応できる」と従来の方針を説明することに終始した。
首相が唯一の反撃材料としたのが金融機能強化法改正案だった。
「(成立が遅れると)迷惑を受けるのは借り手(の中小企業)だ」と、民主党の審議引き延ばしをけん制したが、小沢氏は「参院での修正協議に自民党が応じるよう首相から指示してもらいたい」と一蹴(いっしゅう)した。
「首相は(臨時国会冒頭に)主権者の審判をあおぐ考えを持っていたと聞く。2次補正を来年に(見)送るなら、今、ただちに解散すればいい」
優位に立つ小沢氏は、衆院解散に論点を移し「選挙で勝てば強力な内閣ができるわけだから、やりやすいでしょう」と水を向ける余裕も見せた。首相は「(冒頭)解散も一つの手段だと(就任)当初は思っていた」と応じざるを得ず、攻め込まれた。さらに切り返すことができない首相は、「09年度予算案(審議)で政党間協議ができる場を与えていただきたい。力添え、指導力をお願いする」と福田康夫前首相ばりの低姿勢さえ見せた。
毎日新聞 2008年11月29日 東京朝刊