【2008年12月10日(木)付】
運試しの行列はガードを抜けて、100メートル近く伸びていた。平成に入り、ここから358人の億万長者が出たと、窓口に大書してある。有楽町の宝くじ売り場。90分待ちと聞き、並ぶのをあきらめた▼年末ジャンボは1等2億円が70本、前後賞を合わせ3億円と宣伝している。たくさん売る窓口から多くの長者が出るのは必然で、当たる確率はどこで買おうが同じだ。それでもあやかりたい、手を尽くそうとの思いが列を伸ばす▼山本御稔(みとし)氏の『「宝くじは、有楽町チャンスセンター1番窓口で買え!」は本当か?』(ソフトバンク新書)は、窓口への執着を「私たちの心が勝手に暴走している」と説く。有楽町はハズレの数でも群を抜くはずだが、この事実は3億円のまばゆさに霞(かす)む▼40年前のきょう、同じ額が国中のため息を誘った。銀行から東芝の府中工場に運んでいたボーナス2億9430万7500円がニセ警官に奪われた、世に言う3億円事件である。当時とすれば空前の被害額だった▼事件を報じる夕刊の、お歳暮や家電の広告が元気な時代をしのばせる。その6日後、1等1千万円の宝くじが初めて発売された。人気を伝える本紙は「三億円強奪事件にあおられた庶民の夢か、昭和元禄の底力か」と書いた▼経済の浮き沈みを尻目に、1等賞金は20倍になった。雨中に消えた3億円も、今なら数十億円の感覚だろう。逃走で一生分の運を使い切ったはずの犯人。存命でも世相なりに、くすんだ老境ではと想像する。あるいは列の中で、再びの一獲千金を夢見ているか。
【天声人語2008年12月10日 彩票与抢劫犯】
▼運試しの行列はガードを抜けて、100メートル近く伸びていた。平成に入り、ここから358人の億万長者が出たと、窓口に大書してある。有楽町の宝くじ売り場。90分待ちと聞き、並ぶのをあきらめた。
过来一试运气的队伍穿过铁道桥底下,延伸了近100米。有乐町的彩票销售点的窗口上用大大的字写着“自从平成年代开始,从这里产生了358个亿万富翁。”我听闻需要等90分钟,于是放弃了排队的念头。
うん‐だめし【運試し】
運が向いているか否かを試みること。
ガード
(girder-bridge)道路上にかけられた鉄道橋。陸橋。
ちょう‐じゃ【長者】チヤウ‥
①⇒ちょうしゃ。
②氏うじを統率する人。主宰者。かしら。→うじのかみ。
③富貴の人。富豪。福徳のすぐれた人。「村の―さま」「億万―」
④勅任によって京都東寺に住した一山の首長の称。現在は東寺住職の称。ちょうざ。
⑤宿駅の長。また、宿泊する旅人を慰めたところから、娼家の主人、遊女のおもだった者。
⑥くしゃみをした時に唱えるまじないの言葉。
▼年末ジャンボは1等2億円が70本、前後賞を合わせ3億円と宣伝している。たくさん売る窓口から多くの長者が出るのは必然で、当たる確率はどこで買おうが同じだ。それでもあやかりたい、手を尽くそうとの思いが列を伸ばす。
年末的大抽奖有宣传到:一等奖2亿元有70注,而号码接近的奖励总计也有3亿元。其实在各个窗口产生大量的暴发户本是必然,中奖的概率不管在哪个窗口买都是一样的。然而即便如此,还是有人想尽办法想要成为幸运儿,挤进队伍。
ぜんご‐しょう【前後賞】‥シヤウ
当選番号の前後の番号に与える賞
あやか・る【肖る】
〔自五〕
①(ある物に触れ、または感じて)揺れ動く。変化する。拾遺和歌集雑恋「風早み峰の葛葉のともすれば―・りやすき人の心か」
②感化されて似る。物に感じてそれと同じようになる。特に、しあわせな人に似て自分も幸福を得る。狂言、財宝「こなたの御年にもまた御果報にも―・りたう存じて」。「長寿の祖父に―・りたい」
③(他動詞的に)まねをする。福富長者物語「乏少ぼくしょうが腹癖をやがて―・りつるにやと」
▼山本御稔(みとし)氏の『「宝くじは、有楽町チャンスセンター1番窓口で買え!」は本当か?』(ソフトバンク新書)は、窓口への執着を「私たちの心が勝手に暴走している」と説く。有楽町はハズレの数でも群を抜くはずだが、この事実は3億円のまばゆさに霞(かす)む。
山本御稔先生的新书《“要买彩票,就到有乐町Chance Center 1号窗口买!”是真的吗?》中将对窗口的执着描述为“我们的心灵正肆意放纵”。虽然在有乐町买的彩票中没中奖的数量也远高于其他地方,但这事实却被3亿元的美丽光芒所掩盖了。
ま‐ばゆ・い【目映い・眩い】
〔形〕[文]まばゆ・し(ク)
(マ(目)ハ(映)ユシの意)
①強い光が目を刺激して見にくい。目がくらむようである。まぶしい。源氏物語椎本「朝涼みの程に出で給ひければ、あやにくにさしくる日影も―・くて」。「―・い光を浴びる」
②光り輝くほど美しい。源氏物語葵「いと―・きまでねび行く人のかたちかな」。「―・いばかりの宝冠」
③気恥かしい思いがする。きまりが悪い。
㋐他のはなばなしいものに対して気おくれがする。源氏物語浮舟「いと恥かしく―・きまで清らなる人にさし向かひたるよと思へど」
㋑物事のあらわになるのが気が咎とがめる。源氏物語若菜下「只今しも人の見聞きつけたらんやうに―・くはづかしくおぼさるれば」
④いとわしくてまともに見られない。源氏物語東屋「腰折れたる歌合・物語・庚申こうしんをし、―・く見苦しう、遊びがちに、好めるを」
▼40年前のきょう、同じ額が国中のため息を誘った。銀行から東芝の府中工場に運んでいたボーナス2億9430万7500円がニセ警官に奪われた、世に言う3億円事件である。当時とすれば空前の被害額だった。
40年前的今天,同样的金额却引起了全国上下的哀叹。从银行运往东芝府中工厂的2亿9430万7500元奖金被假扮的警察抢走了,此事被称为3亿元事件。在当时还是史无前例的巨大金额。
にせ【贋・偽】
(「似す」の連用形から)
①本物のように見せかけること。また、そのもの。申楽談儀「名筆の草に書き捨てたるもの、―は成るべからず」。「―絵」
②本物に似せて、いつわること。また、そのもの。「―札さつ」「―学生」
▼事件を報じる夕刊の、お歳暮や家電の広告が元気な時代